2020年、コロナ禍におけるGW。時間を持て余すことが予想されるこの期間に入るにあたり、筆者のもとに一冊の本が届いた。
楽しみにしていたヘドバン・スピンオフ09である。
何が楽しみかと言えば、ハードロックバンド・人間椅子の特集である。
2月に敢行された待望の初海外公演が独占密着取材されているのだ。
その欧州へ行くことがかなわなかった筆者としては、見逃せない一冊だったわけである。
熱量が伝わる素晴らしい1冊だったため、簡単に紹介しつつ感想などを書き残しておく次第である。
ツアーに行けなかった人間椅子ファンはもちろん、人間椅子が最近好きになった人、気になってきている人、そんな人々にも是非手に取ってほしい超名作である。
ヘドバン・スピンオフ09を読んで人間椅子初欧州ツアーに迫る
ヘドバン・スピンオフ09の概要
『世の中をヘッドバンギングさせる本』でおなじみのメタルなムック「ヘドバン」だが、たびたびスピンオフとして突っ込んだ内容の本を世に届けてくれている。
今回のスピンオフのタイトルは「日本が世界に誇るメタル」欧州進撃追跡レポート号となっている。
人間椅子だけではなく、BABYMETALの欧州ツアーもメインで取り上げられている。
欧州3公演のレポートだけでなくて、関係者(他紙・他業種の関係者まで幅広い!)のベストライブ、ベストソング特集も掲載されている。
ということで当然BABYMETALファンも要チェックと言えよう。
またサイドを固める記事としても、THE冠の新譜「日本のヘビーメタル」最速クロスレビュー、『はじめての「聖飢魔Ⅱ」入門』と、これまた濃密である。
人間椅子特集が特盛49ページ
今回のヘドバン・スピンオフが全96ページなのだが、なんと人間椅子の特集はそのうちの約半分、49ページを占めている。
内容としては、ツアー三連戦の独占密着レポート、メンバーの2万字インタビュー、人間椅子のプロモーション担当K氏へのインタビュー、そして人間椅子ギタリスト和嶋氏の渡欧日記とあまりに豪華。
写真も文章ももりもりである。
まずもって分量でその熱量を感じ取ることになる本である!
熱にあてられる密着レポート
涙なしには読めなかった。
ひたすら自分たちの音楽を貫いてきた人間椅子が30年の活動を経ていよいよ海外のステージへ立ち、そこでオーディエンスを熱狂させたのだ。
そのことがひしと伝わってくるライブレポートであった。
三日連続という過酷なスケジュールのなか行われたツアーである。
このレポートではそれぞれのライブの、開場前から終演までたっぷりと描かれている。
そこに描かれたリハの様子、チケット事情、ライブハウスの来歴、訪れるファン、様々な要素がライブ前の高揚を感じさせる。
また海外のオーディエンスの反応なども知ることができた。日本とはまた異なる熱狂の渦が発生していたようだ。
曲の合間にNINGEN ISUコールが飛び出たり、モッシュピットが発生したりと、想像するだけでもわくわくさせられる。
そしてこの人間椅子特集、写真がとにかく多い。
さながら写真集である。
ライブハウスの外観や並ぶ客、そして演奏中のメンバーの鬼気迫る表情、腕を掲げる欧州の観客、模造紙に書かれた落語パートの英訳が使われている様子や、MCで笑顔を垣間見せる様など、その温度が伝わる。
ライブレポートの末尾に見開きで掲載されている観客とメンバーの集合写真は、もう本当に素晴らしいのひとことである。
やり切ったメンバーと最高の表情を魅せる観客、それだけで感動せざるを得ない。
ということで欧州へ行けなかった人間椅子ファンは、是非ヘドバン・スピンオフ09を読むべきだろう。
メンバーが語る! 2万字インタビューでメンバー視点のツアーを知るべし!
これまた大ボリュームな、出発から帰国までの6日間についてのインタビューも掲載されている。
ドイツ密着レポートを両日ともに担当されたライターの奥村氏がメンバー3名へのインタビューを敢行している。
聞きたいことも話したいことも多すぎたらしく、取材予定時間を超過したとか。
そして掲載できたのはその半分程度の内容になってしまったとのことである。
ライブについての話はもちろん、飛行機内での諸々に始まり、海外での食事、海外ライブハウスゆえのリハでの音作りの苦労、ツアー後のオフ日などにも触れられている。
筆者が特に印象的に感じたのは、ドイツ2日目に演奏した「鉄格子黙示録」について語る和嶋氏と、それに応える鈴木氏のやりとりであった。
高校時代に作成した曲をドイツの地で演奏する、ということの不思議を語る二人に対し、なにやらしみじみとした感動が訪れた。
そしてラストに語られる、海外への意識の変化・次なる展望には今後の人間椅子の躍進を期待せずにはおれないのであった。
K氏登場
プロモーションを担当のK氏こと徳間ジャパン北氏がインタビューに応じており、これまた興味深い。
北氏と言えば、人間椅子の公式TwitterやInstagramといったSNS、YouTubeやSpotifyでのプロモーションを仕掛けた人物である。
ヘドバンvol.23にてK氏として一度インタビューを受けており、そのときに「いつか海外公演をやらせてあげたい」と語っていた。
そこからどのようにこの海外ツアーが決まっていったのかという切り口からはじまり、さらに今回の海外ツアーへ帯同しての北氏視点での感想や次なる想いもあわせて語られている。
人間椅子・和嶋慎治の渡欧日記も相変わらず味わい深い文が楽しめる
和嶋氏が渡欧日記という形でそれぞれの日を書き残している。
文体が相変わらず格調高く、それでいておかしさ・かわいらしさを潜ませており、やはり味わい深い。
ヘドバン好きで人間椅子好きならおなじみ和嶋氏のソロキャンプ連載「野営一人旅」に通じる文体である。
そしてその中身には確実な感動がある。
和嶋氏の言葉で、その日その日の想いがつづられている。
海外の地で演奏が冴え渡り、メンバーの躍動を感じ、日本語のロックが現地のオーディエンスに届いている実感を得る。
そんな和嶋氏に想いを馳せ、これまたウルっとする筆者であった。
おわりに
ということで、
人間椅子の初の欧州ツアーを多角的に知ることができる最強のコンテンツ「ヘドバン・スピンオフ09」を全人間椅子ファン、そしてこれから人間椅子ファンになる人に読んでほしい! という話であった。
そしていつもながらの圧倒的熱量がこもったヘドバンシリーズ、このコロナ禍においておうち時間を過ごすのにもおすすめである。
いやはや、それにしてもヘドバン・スピンオフ、面白いものである。