新宿のK’s cinemaで『顔(イェン)さんの仕事』、というドキュメンタリー映画を観てきた。
「顔さん」とは台湾の国宝級とも言われる映画看板絵師・顔振發(イェン・ヂェンファ)氏のことである。
映画の看板絵だけでなくGucciの巨大アートウォール、台北に掲げられたColdplayの宣伝壁画なども手掛けており、2024年にはその功績を称え、台北電影奨・卓越貢献賞を受賞している。
ほ〜!
ところで映画の看板絵って今はもう殆ど見かけないよな〜
顔さんは台湾でも最後の看板絵師とも言われているらしい
映画館前の路上をアトリエとして絵を描き続ける顔さんの仕事に迫る、今関あきよし監督によるドキュメンタリー映画である。
※以下、映画の内容に触れているのでご注意ください。
顔さんの仕事のおおまかな内容と感想
顔さんによるひとつの看板の仕事を4日にわたって見届ける、というのが主だった内容である。
その合間にインタビューや、顔さんの故郷を訪ねるシーンも挿入される。
映画評論家でありイラストライター・漫画家でもある三留まゆみ氏がナビゲーターを努める。
三留さん、よくDOMMUNEの映画系のトーク番組に出てるイメージ
うむ。Audibleで配信されてるMOVIE CYPHERというポッドキャストにいつも出てるな。
で、そこで三留さんがこの映画が紹介されてるの聴いて興味が湧いて観に行ってみた次第である
ちなみに三留氏はかつて今関監督の作品にて主演だったことがあるそうな(45年前…!)。
通訳として台湾の俳優の柏豪(ボー・ハウ)氏を伴い、まずは映画館を訪れる。
「全美戯院(チェンメーシーユエンみたいな読みの模様)」という名前の古き良き映画館である。
3つの大きな看板絵が掲げられている。
ここは昔の趣を残してて、窓口にお金払ってチケットを受け取るタイプなのだ(現金のみ)。かなり安い模様(2024年8月時点で140元=約700円とのこと!近隣のシネコンは1200円くらいらしい)。しかも入れ替えなしの自由席、という日本でもかつてあった往年のスタイルを保っているのである…!
その翌日、いよいよ顔さんの仕事を観に行く。
映画館を出て道路を挟んだ屋根付きの歩道が顔さんの仕事場となっている。
ちょうどスパイダーマンの看板絵の上にチョークで直に描かれたSLAM DUNKの下描きに、色を入れ始めるところであった。
2×3枚を並べて組み合わせることでひとつの大きな看板になる。
一組の看板絵の材料費も結構高い(計5万円ほど)らしく、新作は過去作の看板の上に重ねて描いていくみたい
特大キャンバスに描いているのだが、最初は柔らかすぎて描きにくいらしいな。3作くらい重ねたあたりが描きやすいのだとか。下にどんな絵があっても気にせず直に新作を描いてくのすごいよな〜スラムダンクの文字と白バックだけ塗った状態で、湘北メンバーの形でスパイダーマンが残留しているんだよね。
向きも自在だったね〜利き腕によって引きにくい線ってあると思うんだけど。どの向きでキャンバス置いてあっても、まじでさらっとやってた!
顔さんは1953年生まれで、かれこれ50年にわたり看板絵を描き続けているという。
画材としてはいわゆるペンキを用い、ベニヤ板のようなものをパレットとして使用している。
パレットに並べたペンキ缶から少しずつ筆で色を広げて目的の色を自在に作り上げる。
そして塗りも線も全く迷いなく描きすすめていく。タイトルなどの文字も当たりをつけるだけで一気に書き上げる。
職人って佇まいなんだよな〜
道具の使い込みっぷりがすごい!
出来上がった絵が数名の手作業によって映画館に掲げられるのだが、6枚が組み合わさったときの迫力や手描きならではの味・凄みが伝わってくるのである。また見上げる前提の大きな絵だからこその工夫したデフォルメも施されているという。
顔さんにとって看板絵を描くことは仕事であり、人生そのものってくらい、ひたすらに淡々と作り上げてくのだ…!その姿に圧倒されたぞ。
寡黙そうなんだけど、時折見せる笑顔がまたいいよね〜
64分と短めな作品であり、割とライトなみごたえではあった。
とはいえひとつの仕事を通して、顔さんの看板絵の製作工程や、来歴、人柄に迫る内容となっている貴重なドキュメンタリーとなっている。
近所にこんな看板が出てる映画館があったら最高だろうな〜
ちなみにこのドキュメンタリーは全美戯院でも公開され、顔さんは自身の姿を看板絵として描いている。
パンフレットに「絵を描く顔さん」の絵を描く顔さんの写真が掲載されているゾ(描かれているポーズと描いているポーズが同じなので、入れ子になっただまし絵みたいな変な感覚になるゾ)
K’s cinemaに行ってきた
今回は新宿のK’s cinemaに行って観てきた。
ビルの3階にある、小さいながらもきれいでいい映画館だった。
ちなみにこの日「顔さんの仕事」の直前に上映していたのが同じく今関監督作品である「しまねこ」で、キャストと監督のサイン会が開催され、入れ替え時に急激にこの待合スペースが混雑してビビった次第である。
おわりに
ということで「顔さんの仕事」を観た!という話であった。
素晴らしい文化を今も守っている孤高の看板絵師のドキュメンタリーであり、その制作の工程を通して収めた貴重な作品でもある。
映画を取り巻く文化に興味がある人や、アナログの絵を描くことが好きな人におすすめである。
ちなみに日本では秋田の御成座という映画館で今も看板絵が描かれ続けているそうな。
御成座の看板絵を描いてる人、K’s cinemaでの上映時のトークイベントに登壇されてたね
その御成座でも2024/10/4から「顔さんの仕事」の上映されることが決まっている。